春を届けに


弘前に友達ができた。弘前公園の桜の枝を持ってやって来た。
弘前の桜が日本一と評されるのは、りんご栽培で培われた剪定技術の賜物だ。という話も初めて聞いた。剪定した枝は市民に配られ、この日は200人の行列ができたそう。
その枝を手に入れた彼は、今日たまたま仙台でよく知らない胡散臭い男(おれのこと)と飲むことになっていたので、せっかくだから土産にしようと両手に余るほどの枝を抱えて、新幹線に揺られてやって来た。
「その枝は何?」と俺。
少しはにかんで、「春を届けに」。
いつも飲み歩いていて良かったな、と思うのはこういう時だ。青森にゆかりある親方が立つ古居酒屋へ連れていき、岩木山の写真が飾られた店内で青森談義。枝の1本をお裾分けして、それぞれの帰路へ。
桜の枝を肩に千鳥足で夜道を歩く。笑われるのはまだいいほうで、アブナイ人が来たとあからさまに避ける人もいる。そりゃまあそうだろうなあ。
しかし君たちはこの枝の意味を知るまい。
人はそうやって大切な桜の枝を大事に抱えながら歩いているのだ。たとえその姿が滑稽だと思われようとも。