親父を浜で待ちながら。


ふらっと大船渡に帰って来たら浜に親父がいた。声を掛けると一瞬驚いたような顔で、それから笑顔になって「雨降ってきたがらやめっぺやめっぺ。帰って飲むべし」と言った。しばらくその様子を写真に収めていたが、「濡れっぺっちゃ。車に入ってろ。いま終わっから」と促されて軽トラに乗って親父を見ていた。朝早く出て来たから眠くてウトウトしていたら、ガキのころのことを思い出した。
その日、学校から帰ってきたら、憧れだった従兄の保ちゃんが遊びに来て、親父と姉貴と釣りに行っていることをお袋から聞かされた。
ズルい。
すぐに浜へ飛んで行って、岸壁で親父の船が戻って来るのを待った。1時間、2時間。戻って来ない。
やがて、お袋が毛布を持って軽トラで降りてきた。車の中で待ってっぺし、というお袋の声にいっぱしの反抗期らしく言葉を返さず、毛布にくるまって埠頭に座り続けた。
ズルい。悔しい。
おれの性格を分かっているお袋も軽トラの中で孫をあやしながら待っていた。そのうち辺りは暗くなり、ウトウトしていたら、けたたましいエンジンの音と明かりが近づいてきた。
帰って来た。おれずっと待ってたんだ。なんでおれが帰るの待っててくれなかったんだよ。ズルいよ。なんて文句言ってやろうか!
奥歯を噛みしめて闇の向こうを凝視していると、ぼんやりと、親父と保ちゃんと姉貴の顔が見えてきた。みんなくたびれたような顔で、だけど笑顔で。「おー、まー坊! 待ってでけだのが?」と保ちゃん。
泣きそうなのをギリギリ堪えてようやく口に出たのは、「どうだった! いっぱい釣れた?」
――もう30年近く前の話。同じ浜で、もう少し眠りながら親父の帰りを軽トラで待つ。