それぞれの味覚

高い店がそれなりにうまいのはまあ当たり前で、いかに安くてそこそこうまい店を知っているかということが、その人の飲み歩きキャリア、味覚嗅覚、ひいては価値観をも表す。プレミアが付くような酒より、カッパッパーの黄桜が世界一美味いという人だって否定はできない。蓼食う虫も好き好き。むしろ自分の味覚に自信がない人ほど、価格や評判によるところの「いいお店」に行きたがるのかもしれない。
うちの親父はおれが高い大吟醸を買っていくとすぐに飲み干して、中に醸造酒を入れて気の置けない客人に振る舞い、「やっぱり大吟醸は違うな!」という反応を見て楽しむイタズラ親父だ。それくらい舌なんて騙されやすいものだから、自分以外の誰かの味覚なんて信用しないほうがいい。